【パンと本 第12回】「それからはスープのことばかり考えて暮らした」 吉田篤弘著

突然ですが、みなさまは料理しているとき、どんな想いでいますか?

食べるのが自分一人であれ、好きな人とであれ、家族みんなであれ、「おいしくなれ」と想っている方が多いのではないでしょうか。「パンと本」第12回は、そんな気持ちを思い出させてくれる小説「それからはスープのことばかり考えて暮らした」をご紹介します。

 

 

ある町に越してきたばかりの主人公は、道ゆく人が抱えている同じ紙袋に興味をそそられます。

 

「茶色の紙袋に白いインクで数字の「3」がひとつ刷ってある。」
それは、サンドイッチ屋さんの袋でした。「トロワ」(フランス語の3)という名の小さなお店。そのトロワのサンドイッチを主人公が口にしたことで、物語は動き始めます。なにせ「人生が変わってしまうほどの味だった」のですから。店主とその息子と交流をもつようになった主人公は、トロワで働くことになります。

 

また、主人公は大の映画好き。厳密に言えば、好きなのは映画ではなく、ある一人の女優でした。「ほんの数秒だとしても、とにかく彼女が出演している映画を探し、上映の機会さえあれば時間をやりくりして日本中どこへでも出かけていった」ほどの入れ込みっぷり。そして、ある初老の女性を映画館で度々見かけます。

いつものように映画館へ訪れたある日、その女性が携帯用ポットで持ってきたスープの匂いに、「それからしばらくスープのことばかり考えていた。」というほどに心を奪われます。その後、トロワでサンドイッチに合うスープづくりに携わることになる主人公は、試作を重ねる日々の中、その女性と偶然に出会います。そして主人公をとりまく人々とスープが、二人をつないでいきます。

 

「食べる方は最初が肝心だから、そうなると、つくる方は最後が肝心になる」

「どんな職種であれ、それが仕事と呼ばれるものであれば、それはいつでも人の笑顔を目ざしている。」

 

サンドイッチづくり、スープづくりに四苦八苦する中で、印象的なフレーズがいくつも出てきます。素材や技術も大切ではあるけれど、食べてくれる人に“おいしい”と笑ってほしいという想いこそが、料理をおいしくしてくれる。心の底からそう納得できると思います。

 

料理の観点を抜きにしても、とても魅力的なお話です。登場人物がとにかくチャーミング。主人公、店主親子、映画館の女性、主人公が住むアパートの大家さん、映画館のスタッフ・・・。みんな単なるいい人ではなく、良い意味で個性的なクセがあります。

 

そして何よりも、この物語が進む「町」。個性的な人たちが織りなす物語にもひきこまれますが、この町が、生きているような実在しているような、存在感を放っているのです。

 

あとがきとなる「桜川余話」に記されていますが、物語に出てくる「月舟町」は、著者の吉田篤弘さんが生まれ育った世田谷区赤堤がモデルだそうです。ちなみにこの月舟町を舞台にした小説は「月舟町・三部作」と呼ばれていて、最初の「つむじ風食堂の夜」は映画化もされています。「それからはスープのことばかり考えて暮らした」はその姉妹作であり、完結編の「レインコートを着た犬」と、「つむじ風食堂と僕」という番外編も。お時間があるようでしたら、三部作プラス番外編の一気読みをオススメします。

 

 

中央公論新社「それからはスープのことばかり考えて暮らした

吉田篤弘 著

http://www.chuko.co.jp/bunko/2009/09/205198.html

 

text:セイヤ/ライター
2019年の目標は、娘から「絵本を読んで」と言われること。好きなパンはバターたっぷりのトースト。「超熟」6枚スライスが好き。

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  1. ねこまるさん

    気になります

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  2. loving rabbitさん

    気になります!

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  3. loving rabbitさん

    読んでみようかな…

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  4. 塩豆大福
    塩豆大福さん

    今日、図書館で予約します!

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  5. ふわりんさん

    私も大好きなお話です。
    本の装丁も素敵ですよね!

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  6. ゴンさん

    印象的なフレーズを探しながら読んでみたいです。

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  7. まりりんさん

    面白そうです♪読んでみたいです♪

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  8. プリンさん

    読んでみたいです。

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  9. 珈琲豆
    珈琲豆さん

    図書館で予約してみよう。

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  10. コスモスさん

    面白そうな本ですね。
    印象的なフレーズが気になります。

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